EVENT  「私たちの部落問題vol.2」 第2部土肥いつきさんレクチャー


 第2部前半では、長年人権教育にたずさわってきた土肥いつきさんに「語ること/隠すこと/さらすこと」をテーマに、カミングアウトとアウティングについてのレクチャーをしていただきました。

 生徒たちのカミングアウトに向き合ってきた日々を通して今思うこと、そして「カミングアウト」と「アウティング」の境界線とは…。

レクチャーの内容を再構成したものを、7回に分けて掲載していきます。

 

第3回目は「みんなに言ってよかったって心から思う」です。

             

第1回目の「去っていった生徒」はこちらから

第2回目の「本名宣言は1つの到達点であると同時にそこからが本当のはじまりなのです」はこちらからご覧いただけます。


●「みんなに言ってよかったって心から思う」

 

 次はカオリという生徒です。「みんなに言ってよかったって心から思う」という1997年の実践です。カオリは部落出身の生徒で、やっぱりクラスの中で自分の話をするんですね。その時の原稿があるのでその原稿を読みます。

 

【「みんなを信じて」(これは作文のタイトルです)

 Aには、いくつか地区があり、X地区Y地区がいわゆる同和地区、つまり部落なのです。私はY地区で生まれ育ちました。

 私の両親は2人とも部落の人間です。

 部落民宣言する決意をしたのは、部落の高校生の集会に参加してからだったけど、それ以前から私は宣言するかしないか悩んでいました。去年のクラスでは、私が部落に住んでいることを隠していました。去年も今年と同じように同和学習をしたけど、私はクラスのみんなに部落民宣言する気にはなれなかった。私は同和学習のたび、みんなの態度にイライラしていました。寝たり、他のことをしたりするのが当たり前でした。「私が宣言しても何も変わらない」と感じていました。

今回、宣言しようと思ったのは、きっかけがあったからです。一学期の同和学習のとき寝ている人や、他のことをしている人が多くて、その中に親しい友達がいたのがすごくショックだったのです。正直言って、腹が立ちました。

(土肥いつきさん)

 その日の放課後、私はたまたま教室に残っていた友達に、私が部落民であること、今日の同和学習で腹が立ったこと、今日までのしんどい思いを全部打ち明けました。その子は私に「言ってくれてありがとう」て言ってくれた。今まで、何人かの友達に、

私が部落民であることを言ったけど、「ありがとう」って言われたのははじめてでした。私はすごくうれしくて、思わず泣いてしまいました。このクラスの中には「そんなん私らに関係ないやん」とか「同和学習するから差別はなくならへん」と思っている人もいるかもしれません。私はそういう考えの人がいるから部落差別はなくならないんだと思う。「関係ない」とか言ってる人が、いちばん差別問題に関係があるんだと思います。


 私は、私が部落民宣言をすることで、みんなが少しでも部落差別について真剣に考えてくれると信じて宣言しようと決意した。でも、私が部落民だということを知ったので、これからはちゃんと考えるっていうのは、なんか嫌でした。こういった矛盾する気持ちもありました。家族に相談してみると「宣言したことで、まわりが真剣に考えてくれるようになるんやったらいいやん」って言ってくれました。

 

 実際に、私のまわりの友達は、私が部落民だと知ってから、私のしんどい思いをわかってくれたり、一緒に考えてくれたり、部落について疑問に思ったことなど聞いてきてくれます。先週、数学の時間が同和学習の時間になったとき、私が部落民だと知っている友達は「さっきの同和学習の時間、めっちゃねむたかったけど、聞かんなあかんと思って頑張って起きてん」って言ってくれました。

 今日私は、まわりにこういった友達、両親、兄、先生がいたおかげで、今ここで部落民宣言することができたと思います。私が宣言したことで、みんなが差別について真剣に考えてくれたらすごくうれしいです。最後まで聞いてくれてありがとう】

 

 こんな宣言をしました。

 

 カオリが話をした後に、クラスの子たちに

「カオリに自分らの思いを手紙にして書こうか」

って紙を配ったんですが、その中にこんな作文がありました。

 

【うちのクラスに部落の子がいるってゆうのを知ったのはつい最近で、私が家出中のとき、土肥先生が家出先の兄の家に来て、いろいろ話をしているなかで「いま、ウチのクラスの子で、部落の子がいる。その子は部落民であることをみんなに言おうか、言わんとこーかまよってる」ってゆうのをきいて(またアウティングしてますね)、うちは部落の子がいるんやとゆうことを、はじめて知った。

 

 カオリが自分が部落やってことを知ったとき、どーしたらえーかとかなんもわからへんかったやろうと思う。わたしの家はそうゆう部落とかじゃないけど、私の父は本当の父じゃなくて、それをはじめて聞いたとき、どーしたらえーかわからへんくてなやんだ。

 最初の方はみんなには本当の父じゃないってことをかくしたけど、かくしてる時はなんかそうゆう父とかの話でもりあがると、すごい自分一人が気まずくなってまわりの友だちとかのはなしをきくのがうごくうざったかった。だからカオリも自分が部落民やってことかくしてる時、まわりのみんなの態度にムカツイたりしただろうと思う。

 でも、これからはみんなに協力とかしてもらえると思う。なんかよくわからんけどがんばれ】

 

 こんな応答があるんですよね。カオリのカミングアウトが、また別の子のカミングアウトへと連鎖反応起こしていく。そういうクラスの雰囲気をわかってもらえるんじゃないかと思います。

 

 そんな友だちの手紙を読んだカオリは、さらにまた自分の話を書きます。

 

【「みんなに言ってよかったって心から思う」

 部落民宣言して、クラスのみんなが部落差別について真剣に考えてくれるようになった。以前の私は少しひねくれたところがあって、「私が宣言をしたから真剣に考えてくれるのは、腹が立つ」とか、「何も変わらへん」とか思っていた。

 でも今は、宣言してよかったって心から思う。私が部落民であることを公にしたことによって、友達が気軽に部落についての疑問を聞いてくる。たとえば、うちに遊びに来た時、どこらへんが部落?今でも差別があるの?って聞いてくる。私が身近にあった差別の話をすると、「カオリは差別されたことある?差別されたら言いやッ!うちが言いに行ったる」って言ってくれた。

 それに、以前なら「遊ぼう」って誘われた日に青年部活動があると「ゴメン今日用事があるねん」って断ってたけど、今では「今日青年部活動があるから」って断ってる。部落民宣言したことは、自分が思っていた以上に自分にとってプラスになった。全然しゃべったことのなかったクラスメートと、お互いの家を行き来するほどの仲になれたし、その子は自分のしんどい気持ちを打ち明けてくれた】

 

こんな感じですね。

 

第4回目の「語ること、隠すこと、さらすこと」に続きます)