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裁判に関する記録などを掲載しています


◆第8回口頭弁論(2017年3月12日 東京地裁)

 

 2018年3月12日(月曜日)。春の陽気のなか、13:00ごろにはすでに第8回口頭弁論の傍聴券を求めるひとの列ができていました。今回の裁判傍聴記のレポーターである私、「くろみつ」も列に加わりました。13:30をまわる頃には、たくさんの人が列をなし、行列が長くなってきたので、「2列になるようお願いします」との指示がでました。そして、傍聴券の抽選の準備がはじまりました。無事、黄緑色の傍聴券を手に入れることができました。

 

  口頭弁論は、14:00から東京地裁103号法廷にておこなわれました。裁判は、驚くほどわずかな時間で終わってしまう日もあって、今回も15分ほどで終わりました。初めて傍聴する人は、裁判長と原告、被告が、比較的ちいさな声で早い口調で喋って、聞き取れないと思っているうちに裁判が終わっていた、ということもあるかもしれません。だから、裁判のあとにおこなわれる報告集会で、原告や弁護士の解説を聞いて、ようやくわかることが多いです。

 

 今日の裁判のメインは、「被告側(示現舎の側)の準備書面6」の陳述でした。前回の12月25日の「原告側(解放同盟の側)準備書面6」で述べられている主張への反論になります。裁判長から5分程度で陳述するよう指示され、被告M本人が陳述をおこないました。今日の書面は37ページあり、わずか5分で要点を述べることになるので、被告がいちばん強調したいことはその言葉のなかにあるのだろうかと思いながら傍聴しました。

 

 ちなみに、前回の「原告側準備書面6」では、インターネット上での差別事件として、身元調べの横行や、「エゴサーチ」(自分の名前などをインターネットで検索すること)によって出身を知ってしまう問題などが挙げられました。また、カッターナイフ・アイスピック・ナイフ等が封入された封書が、部落解放同盟の県連事務所などに連続して届いていることが述べられていました。

 

 被告側の主張はすべて紹介しませんが、例えば、「エゴサーチ」の問題に対しては、被告は「出身を誇らないのは『丑松根性』だ」と述べていました。しかし、「出身に誇りを持つことと、他人が出身を暴くことは同じではない」ということは、この裁判(と並行している仮処分)で重要な論点のひとつです。また、刃物の入った差別封書に関しては、「普通に生活をしておれば、刃物など送られてこない、もともと『変なこと』が原告におこっているのではないか」と、自分たちには責任がないといったような主張でした。

 

 次回の5月28日は、裁判所と原告、被告の3者によって、今後の論点を整理するという作業をおこなうため、法廷で公開されません。この日に次の裁判の日程が決まるので、いまのところ、日時はわかりませんが、夏頃になると思われます。また、夏頃にお会いしましょう!

(2018/4/3 くろみつ)


◆横浜地裁仮処分判決への異議申立への判決

鳥取ループ・示現舎に対して2016年、横浜地裁が『全国部落調査・復刻版』出版禁止(3/28)とネット掲載禁止(4/18)の仮処分決定を出しました。現在、部落解放同盟と示現舎との本訴がおこなわれています。

しかし、示現舎は横浜地裁に「仮処分決定」を取り消すよう「異議申立」(保全異議申立)を行ってきました。

 

それに対する判決が3月16日に横浜地裁から出されました。

結論から言えば、「仮処分決定」が維持され、示現舎の申立は認められませんでした。

 

裁判所があらためて、示現舎の主張を否定し、「出版禁止」と「サイト掲載禁止」の判断を下しました。

横浜地裁は、『全国部落調査・復刻版』の出版・ネット公開等は、「個人債権者(部落解放同盟員)らの人格権に対する侵害行為であり、本件においては、侵害行為が明らかに予想され、これによって個人債権者らが重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるから」「出版差し止めを求めることが出来る」との決定を出しました。

 

 

◆今回の判決のポイント

 

①長年にわたり同和対策事業が実施されてきたが、現在もなお部落差別は存在する。(同対審答申、同和行政、部落差別解消法)

②『全国部落調査・復刻版』は、かつて法務省が回収した「部落地名総鑑」と同種の差別図書であり、ネット公開もダメ。

③出版・ネット公開されることにより、「様々な差別を招来し、助長するおそれが高い」ため、仮処分決定は妥当である。

 

以下は、横浜地裁の決定文の概要になります。

基本的に示現舎の主張は認められませんでした。

彼らは「保全抗告」をすることが予想されます。

 

 

【示現舎の主張に対する、裁判所の判断】

 

①同和地区出身者という法律上の身分は存在しない。

➡「同和地区と言われる地区の存在については、同和対策審議会においても実態調査が実施され、具体的な統計がとられている」「債権者(原告)が同和地区出身者であるとの主張は、同和地区と言われる一定の地区の出身であることを意味するものにすぎず、法律上その他の何らかの身分が存在することを意味するものではないから、債務者の主張は採用できない」

 

②出版禁止は公権力による検閲で、憲法21条違反

➡「公共の利益に係らない事項を記載した本件出版予定物」の出版等によって、「公的立場にない個人債権者(原告)らの人格権の侵害が問題とされる」ために、事前差し止めを認めることは検閲でなく、憲法違反でもない。

 

③「全国部落調査は様々な部落研究の書籍で引用されている」「同和地区の地名が列挙された書籍は行政や債権者(部落解放同盟)の関係団体から出版されている」のに、なぜ自分たちはダメなのか。

➡「全国部落調査が引用されていると指摘されている書籍等は、いずれも、同和問題の歴史等にかかる調査・研究資料等であり」「引用方法も、部落所在地及び部落名を含まない引用にとどめるか」「ごく一部(数件から十数件程度)の引用にとどめている」

しかし、「本件出版予定物は、部落地名総鑑と同様に、同和地区の所在地等を、最新の地名も交えて、網羅的、一覧的に記載したものである」「債務者の指摘する書籍等とは、趣旨及び内容のいずれにおいても異なることが明らかである」

部落解放同盟や関係団体の書籍について、

「同和問題に関わる行政資料であるか、特定の都道府県内の同和地区にかかる調査・研究資料、同和問題に取り組む団体の報告資料等であり」「当該調査・研究等に必要な限りで、同和地区の地名等を記載したものであって、本件出版予定物とは、趣旨及び内容のいずれにおいても異なる」と、示現舎の主張を否定。

 

④戸籍謄本は、部落差別に利用できるものではない。部落差別が存在しているという客観的な証拠がない。

➡戸籍等不正取得事件のうち一部については、「調査対象者が同和地区出身者かどうかを調べることを目的とするものであった」ことは事実。

「現在においても、同和地区出身者らに対する差別行為を容認する意識が一定程度存在することは否定できず、債務者の主張は採用できない。

 

 

【『全国部落調査・復刻版』は「部落地名総鑑」と同類。ネット公開もアウト】

 

非常に重要なポイントです。「部落地名総鑑」のネット公開はアウト。しかし、行政や研究機関等の調査研究の場合は当然OKとの認識もあらためて示しました。

【「全国部落調査・復刻版」「本件ファイル」(ネット掲載)は、「法務省が10年余りををかけて回収と焼却処分に当たった部落地名総鑑と同種のものであることに照らせば、本件ファイル等がインターネット上で引き続き公開された場合には、部落地名総鑑と同様の利用がされることにより、同和地区出身者の就職の機会均等に影響を及ぼし、さらには様々な差別を招来し、助長するおそれが高く、かつ、一旦差別を招来した場合には、その性質上、これを事後的に回復することは著しく困難であると認められる」】

上記は出版禁止・ネット公開禁止の仮処分決定に係る「保全異議申立」事件になります。

                                     (2017/3/22 つばめ次郎)