Q.部落の人って育ちが悪くて怖いんでしょう?


A.

部落で生まれ育った者として回答させていただきます。
「部落に怖い人がいるかどうか」については、正直なんとも言えません。
全国どの地域にだって、怖い人・怖そうに見える人はいると思うからです。
だけれど、「部落『だから』怖くて育ちが悪い」という意見については疑問を感じます。

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高校の頃、仲良くしていた友達同士が学校の休み時間に「この辺ってガラ悪いやろ?夜めっちゃ怖いよなぁ」「だって駅前に変な人おるもん」「うそ〜なにそれ〜」という会話をしているのを聞いてしまった事があります。地元では有名な気さくなおじさんの事だとすぐにわかりました。

それと同時に、「ガラ悪い」とされる地域に住んでいる私はとてつもなく気まずくなったのを覚えています。その会話をたまたまそばで聞いていただけなのに、一人で勝手に気まずくなったのです。
その気まずさは、これから私が発するはずだった「そのおじさん知ってる人でね、」という言葉を奪います。

そしてその友達は、何事もなかったかのように私に話しかけてきました。私は相槌を打ちながら何事もないように振る舞うのに必死になっていました。直接自分が攻撃をされた訳ではないけれども、あの時の私は自分の振る舞いや発言に対して、「部落(出身)だから」と意味付けされることを回避しようとしていました。

しかし数年後に、当時の交際相手とのケンカの最中に「お前はやっぱり部落やからガラ悪いねんな」と言われた時、同じように傷付いた高校時代の記憶が蘇りました。

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現在はインターネット上でも同様の言葉や質問を目にしますが、「ガラが悪い」ということについての定義や具体的な説明はないにも関わらずどうして今も昔も同じ事を言う人がいるんだろう、と不思議に思っていました。

おそらくその原因のひとつは、親切心に似た「善意」です。
そういった言葉を口にする人の中には「自分には差別意識はない」と思っている人も一定数います。

ですがその言葉によって、「〇〇は〜らしい」というイメージを押し付けられる人がいるというのも事実です。
いつの時代も、「〇〇は〜らしい」という実態を伴わない語りが、マイノリティへの偏見を強くしながら、広めてきました。
そこに住む当事者を無視したり、ないがしろにするような「善意」は、本当に必要なのでしょうか。
仮に、誰かに聞いた言葉や内容だったとしても、その言葉を同じように使ってしまうことで、あなたが新たな差別を拡散する加害者になってしまう可能性があるのです。

 

三木幸美